🇺🇸なぜアメリカの薬だけ「ロレックス並み」の値段なのか?
Contents
最恵国待遇価格(MFN)政策が目指す“命の値札”再考
「この薬、1回で229万円です」
……ロレックスの新品でも買えそうなこの値段、冗談ではありません。しかもこれが保険適用前の“正規価格”。アメリカでは、命を守る薬がまるで高級時計のように扱われているのです。
世界中で売られている“同じ薬”なのに、アメリカだけ値段が爆上がり。なぜ、そんなことが起きるのでしょうか?
2025年5月12日、トランプ元大統領はこの問題に対処すべく「最恵国待遇価格(Most Favored Nation Price, MFN)」制度を再び持ち出しました。
今回はこの“命の値札”にメスを入れる政策について、ユーモア少々、真面目さ多めでわかりやすく解説します。
🧩1|そもそも「最恵国待遇価格(MFN)」って何?
最恵国待遇価格(MFN)とは、アメリカで販売される薬の価格を、他の先進国で最も安く売られている価格に合わせるというもの。
ざっくり言えば「日本やドイツ、カナダと同じくらいの値段で売ってよね」という仕組みです。
🔍政策の中身はこんな感じ:
- 対象薬:メディケア(Part B/D)でカバーされる高額薬(注射薬など)
- 比較対象国:フランス、ドイツ、カナダ、イギリスなどのOECD先進国
- 狙い撃ちされる薬:後発品なし&価格交渉しづらいブランド薬
- 制度の出発点:当初は2021年スタート予定→製薬業界の反発で延期&凍結
トランプ氏の再登板により、このMFN政策が再び注目を集めているというわけです。
💊2|なぜアメリカの薬だけ高いの?
それはズバリ、「自由価格市場」だから。
日本やドイツのように政府が薬価をコントロールしていないため、製薬会社が自分たちで価格を決め、それを保険会社が個別に交渉しています。
言ってしまえば“言い値”が通る市場。それがアメリカ。
政府は長らく価格交渉に関与してこなかったため、製薬会社が設定する価格が青天井状態になっていたのです。
その結果、同じ薬でも「米:229万円」「日:39万円」といった差が普通に発生。
🧸3|ペンギン村の薬局でたとえてみた
ペンギン村には、世界中の動物たちが訪れる薬局がありました。
うさぎさん(日本):風邪薬 500円 くまさん(フランス):同じ薬 400円 ねこさん(カナダ):同じ薬 350円 わしさん(アメリカ):同じ薬 1,500円
怒ったわしさんが叫びます。 「なんで私だけ、こんなに高いの?!」
そこで村長のトランプわしが言いました。 「これからは一番安い国と同じ値段で買うことにする!」
そう、これがまさに最恵国待遇価格(MFN)の考え方なのです。
⚖️4|メリットとデメリットを比べてみよう
✅メリット
項目 | 内容 |
---|---|
💰 薬価の抑制 | 製薬会社の“言い値”が通じなくなる |
🧓 高齢者の負担軽減 | メディケアの利用者負担が軽くなる |
🏢 業界への圧力 | 世界価格の透明化・是正につながる |
❌懸念点
懸念 | 影響 |
⛔ ドラッグ・ロス | 利益が出ず薬を出さない企業が出てくる |
🧪 イノベーション停滞 | 収益減で新薬開発への投資が減る |
🌍 ドミノ効果 | 他国の薬価引き上げリスク |
製薬会社からは「新薬出すのやーめた」「この価格じゃ販売ムリ」などの声も出ており、 政策の実施には強い反発があります。
💸5|価格差はどれくらい?(がん薬オプジーボの例)
国名 | 価格(1回) | 円換算(@150円) |
🇯🇵 日本 | $2,600 | 約39万円 |
🇬🇧 イギリス | $3,350 | 約50万円 |
🇩🇪 ドイツ | $3,500〜4,000 | 約52〜60万円 |
🇺🇸 アメリカ | $7,635〜15,269 | 約114〜229万円 |
同じ薬でも、最大6倍の差。
🧭6|日本はどうなの?安心してて大丈夫?
私たちの国では、公的医療保険制度によって薬価が国により管理され、 患者の自己負担も原則3割(+高額療養費制度あり)で済みます。
これは、制度の力で「命を守る価格」が保たれているということ。
でも、財源には限界があります。今後、**「高すぎる薬を保険でどこまでカバーするか?」**という議論は避けられないでしょう。
🧶まとめ|“命の値札”と向き合うとき
「なんでアメリカだけ、こんなに高いの?」 その疑問に真っ向から答えようとしたのが、MFN政策です。
価格を下げることで救える命がある一方で、薬が届かなくなるリスクもある。
“安ければいい”では済まないのが、医療の世界。
命を守る薬が、ちゃんと届き続ける社会であるために。 私たち自身も、制度やお金の構造に目を向けることが求められています。
📚おすすめ図書
以下のブログ内容に関連し、アメリカの薬価・医療制度や最恵国待遇価格(Most Favored Nation Price)政策、国際的な薬価比較、製薬業界の課題といったテーマを深く理解するためのおすすめ図書をピックアップします。
1. 欧米主要国の保険・薬価制度の徹底理解(2017年版) 情報機構(著)
アメリカ・イギリス・ドイツ・フランスの医療保険制度・薬価制度を比較し、薬価設定の仕組みや価格戦略のポイント、各国の最新データも網羅。国際薬価政策やバイオシミラー、HTA(医療経済評価)など、グローバルな視点で薬価問題を理解したい方に最適です
2. アメリカ医療制度の政治史 名古屋大学出版会(著)
オバマケア以前から現在まで、アメリカの医療制度がどのように発展・変遷してきたかを歴史的・政治的に解説。なぜアメリカで国民皆保険が実現しづらいのか、薬価高騰の背景にある政治構造も学べます。
3. 市場原理とアメリカ医療 石川義弘(著)
アメリカ医療の現実と課題、自由競争と医療格差、高額な医療費・薬価の構造、医療経済の考え方を平易に解説。米国の市場原理が医薬品価格に与える影響を知りたい方におすすめです。